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DVやストーカーなどに苦しむ女性の引っ越しを手伝う「夜逃げ屋TSC」の社長

 配偶者からの暴力(DV)やストーカー被害などに苦しむ人の「夜逃げ」を専門に手がける引っ越し屋がある。社長も元DV被害者で、約10人いるスタッフも、ほとんどがかつての依頼者だ。なぜ、日本社会に「夜逃げ屋」が必要とされるのか。

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 5月下旬、都内の取材場所に現れた社長は、ジーンズにスニーカーの軽装だった。夫からのモラハラ(精神的DV)に苦しみ、夜逃げを決意した女性の荷出し作業を終えたばかりだという。

 予定より時間がかかり、3時間かけて2トントラックに家財道具を積み込んだ。自宅を後にしてしばらく車を走らせると、女性の目から涙がこぼれたという。

 「子どもも一緒で、『自分が守らなければ』と思っていたのだと思う。ホッとしたんでしょうね」

 社長が、やむを得ない事情での引っ越しを手伝う「夜逃げ屋TSC」を設立したのは23年前。以来、計2500件以上の案件を手がけてきた。

 社長自身、元夫からの暴力に苦しんできた。日常的に暴力を受け、意識不明で救急搬送されたことも何度かある。それでも「自分さえ我慢すれば、この場はしのげる」と耐えてきた。

 一緒に住み始めて4年。その日、元夫は機嫌が悪かったのか、社長の顔面に頭突きをくらわせてきた。

 そのまま気絶した。目が覚めてぐちゃぐちゃになった自分の顔を鏡で見て、ショックのあまり再び気絶した。

 意識を取り戻したときに思った。

 「このままでは、いつか本当に殺される」

 飼っていた犬と、車に積めるだけの荷物を入れて、夜逃げした。

 車中泊や各地を転々とする日々が続き、アルバイトをしながら次の人生について考えた。

 そんなある日、元夫からの暴力について相談してきた旧知の警察官と会い、冗談ぽく言われた。

 「中村雅俊のドラマに『夜逃げ屋本舗』っていうのがあるよ。夜逃げ屋やったら?」

 さっそくビデオを借りて見た。「やってみたい」と思った。

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